■最も恵まれない層に対する保障のありかた

ベーシックインカムは究極の社会保障か: 「競争」と「平等」のセーフティネット

ベーシックインカムは究極の社会保障か: 「競争」と「平等」のセーフティネット

萱野稔人編『ベーシックインカムは究極の社会保障か』堀之内出版

 萱野稔人様、ご恵存賜り、ありがとうございました。
 2012年、橋下徹が代表を務める大阪維新の会は、「ベーシック・インカム」をかかげて、福祉行政のスリム化と福祉の自己責任化をめざすための、「制度設計」をめざすと主張しました。
 この主張によって、ベーシック・インカムは、再び政治の論争点になっています。
 民主党はこれに対して、2011年末の段階で、消費税の増税によって不利益を被る低所得層に対する補償として、「給付付き税額控除」という制度をかかげました。
 「ベーシック・インカム」と、「給付付き税額控除」。この二つの違いが、政治的に争われます。「給付付き税額控除」の場合、低所得層の人々にとって、自分の所得が増えれば、給付金も増えます。つまり、「給付付き税額控除」は、働けば働くほど、追加的に給付金がもらえる点で、労働へのインセンティヴを与えています。これに対して「ベーシック・インカム」は、労働へのインセンティヴをあたえず、所得を得ようと、所得なしで過ごそうと、すべての人々に対して、一定の基本所得を給付するわけです。
 はたして、労働に対するインセンティヴを、公的制度を通じて与えるべきなのかどうか。これを認める立場は、詳しい説明は省きますが(拙著『帝国の条件』参照)、「新保守主義」であると言えるかもしれません。
 これに対して、「ベーシック・インカム」の立場は、労働へのインセンティヴから自由な社会を理想とする点で、「福祉国家リベラリズム」と親和的なのですが、ベーシック・インカムリベラリズムの違いは、さらなる問題を提起します。つまり「ベーシック・インカム」は、最も恵まれない層に対して最大の利益となるような社会を、必ずしも展望しないわけです。「ベーシック・インカム」論は、「最も恵まれない層」の定義に対して、異議を申し立てる理論でもあるのです。
 いずれにせよ、民主党はリベラルなようで、この問題に対しては「新保守主義」的であり、これに対して、大阪維新の会は、新自由主義のようで、リベラルと親和的でもあるという、ねじれた現象になっていますね。