■低所得層が増えているのに、家賃は上がっている

都市の条件―住まい、人生、社会持続 (真横から見る現代)

都市の条件―住まい、人生、社会持続 (真横から見る現代)

平山洋介著『都市の条件』NTT出版

平山洋介様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 都市の住宅環境の変化と、人々のライフコースの変化の関係を論じた好著です。いろいろなデータが示され、最新の住宅事情をめぐって、事実に裏付けられた分析から、明快な結論に至ります。
 それにしても、結婚しない人が増えています。1980年から2005年にかけて、30代後半の人で結婚している人は、80%から約60%にまで減っています。晩婚化ということなのですが、生涯未婚率も増えています。
 こうした事情は、さまざまな要因が重なって生じていると思いますが、その一つとして、しばしば若者たちは、「パラサイト・シングル」を楽しむようになった、ということが言われています。親に寄生しながら独身貴族を楽しむ人たちですね。
 ところが本書の分析が示しているのは、「パラサイト・シングル」を都心で謳歌している人たちは、少ないという事実です。「パラサイト・シングル」はどこにいるのか、と言えば、郊外や田舎です。東京の奥多摩のような、農村・山間部では、「パラサイト・シングル」の割合が高い。農村・山間地域では、若者の雇用そのものが少なく、賃貸住宅も少ない。だから若者は、結婚するまでパラサイトするしかない、ということになるのでしょう。
 「パラサイト・シングル」というと、親元で暮らして、贅沢品の消費に没頭している、というイメージがありますが、そうではない。むしろ、住環境と雇用環境の貧しさから、パラサイトせざるを得ないのが現実だ、というのが本書の分析です。
 ただ農村・山間部というのは、若者の人口も少ないでしょうから、例えば東京都に暮らす若者全体のライフ・スタイルとして、贅沢なパラサイト・シングルが増えた、ということはいえるかもしれません。通時的な分析も必要でしょう。
 もう一つ、興味深いのは、1988年から2008年にかけて、首都圏では、一ヶ月あたりの家賃が五万円以下の物件が、約300万戸から約150万戸へと、半減しているにもかかわらず、年収300万円以下の世帯は、218万世帯から356万世帯に激増している、という点です。この20年間で、住宅は需給のバランスを失ってしまい、所得と住宅のミスマッチが進んできた。これは自生的な反秩序である、ということができます。
 良質の低家賃の住宅が欠乏してきたために、若者たちは結婚を遅らせ、また子供を育てるインセンティヴを殺がれているのかもしれません。少子化を防ぐためにも、いま、抜本的な住宅政策が必要とされていますね。「自生化主義」という発想から、低家賃の住宅供給について考えてみなければなりません。