■日本で成功した唯一の革命とは

大澤真幸『日本史のなぞ なぜこの国で一度だけ革命が成功したのか』朝日新書

大澤真幸様、ご恵存賜りありがとうございました。

 大変スリリングに読みました。
 北条泰時に対する追討命令が、朝廷から出されます。関東の武士たちは動揺したでしょう。それまで武士たちは、全面的に朝廷に対抗したことはなかったからです。
 泰時は、最初は「無条件降伏」を支持したようです。どうも優柔不断だったらしい。
 でも最終的には、北条泰時天皇側の軍に勝つ。これが「承久の乱」(1221)です。
 それで戦後、泰時は
(1)三人の上皇流罪にした。
(2)幼い天皇仲恭天皇)を廃した。
(3)出家していた後鳥羽の兄を還俗させて、上皇とするとともに、その息子を後堀河天皇として即位させた。
 さらに泰時は、京都に六波羅探題をおいて西国と東国を統一。
 加えて、最も重要な偉業を成し遂げます。関東御成敗式目という法律を定めるのです。合議体の評定衆によって(つまり人々の共同意志によって)、裁判の公正性を保つという制度ですね。
 御成敗式目は、国外の法を導入するのではなく、国内において、自発的な仕方で(つまり固有法として)法を築いたものでした。これによって泰時は、幕府が朝廷と対等な、正統な支配者であることを明らかにします。
 日本人はこのとき、自分たちでいわば内側からの共通意思でもって、天皇の権威を借りずに、法を制定することに成功した。いわば憲法制定権力を共同で行使したのだと。これが革命の本質であるというわけですね。
 これはハーバーマスの考える憲法制定と革命の関係に近いでしょう。この革命の理念照らしていえば、第二次世界大戦後、私たち日本人がすべきであったことは、昭和天皇を廃して別の天皇を擁立することであり、またその上で、アメリカの圧力から脱して、自分たちで内側から憲法を制定し、天皇制に依存しない権力の正統性を打ち立てるべきであった、ということになるでしょうか。