■人工知能が自分の好みを教えてくれる


感情化する社会

感情化する社会

大塚英志『感情化する社会』太田出版

大塚英志様、ご恵存賜りありがとうございました。

 人工知能(AI)の発達は、たしかに目を見張るものがあります。
 例えば人工知能に、たくさんの猫の写真やビデオを見せてみたら、人工知能の側で計算をはじめて、ある認識パタンにもとづいて「猫という存在はこういう感じの生物だ」というイメージを、自分で描いてみることができたわけですね。
 こうした人工知能の成果は、おそらく他の分野にも応用できるでしょうから、例えばAIにたくさん小説を読ませて、さらに批評家の批評パタンも読ませれば、AIは自分で小説を書いて、その小説を別のAIの批評家に評価してもらって、それでAIはさらに上手な小説を書いて、批評家も批評が上手になって、云々といったことが起きるかもしれませんね。
 さらに、小説に対して「AI大賞」のような賞が受賞される時代が、近い将来、来るかもしれません。あるいは、ネットでランクが上位になる小説を分析して、ランクが高くなりそうな小説を正当に評価できるようなAIが現われるかもしれません。
 音楽にも、応用できますね。作曲の「AI大賞」という。
 空想は拡がりますが、「専門家よりもいっそう専門的」「アーティストよりもいっそうアーティスト的」「自分よりももっと自分の好みを知っている(そして見つけられる)」などといったAIが出現するようになった時代には、いったい「自己の自己性」とはなんなのか。その理解がおそらく変化するでしょうね。「自分のことは、AIのほうがよく知っている。では自分とは何者なのか。」これは考えてみるに値します。