■潜在能力がないので解雇、という論理に反対

不安な経済/漂流する個人―新しい資本主義の労働・消費文化

不安な経済/漂流する個人―新しい資本主義の労働・消費文化

リチャード・セネット『不安な経済/漂流する個人』森田典正訳、大月書店、2008年

・森田典正様、ご恵存賜りありがとうございました。

・セネットは職人芸の仕事を保守する立場から、現代の資本主義を批判しています。能力主義とは、もともと、下層に生まれた能力のある人(「自然の貴族」)を抜擢することからはじまった、といえます。それが組織的に行われるようになると、世襲の特権階級と、自然の貴族階級との競争を組織化する形で、才能の発掘を制度化するようになる。さらに能力主義は、労働者を選別して、解雇するための基準としても、用いられるようになる。「潜在能力に欠けるから」という理由で解雇されると、それはその人にとって人格をまるごと否定されたような打撃になるだろう。セネットが批判するのは、将来性という観点から評価するような社会であり、これに代えて、過去の業績をしっかり評価できるような社会を展望している。