■民主党の経済政策を批判する視点

日本経済論 「国際競争力」という幻想 (NHK出版新書)

日本経済論 「国際競争力」という幻想 (NHK出版新書)

松原隆一郎『日本経済論 「国際競争力」という幻想』NHK生活新書

松原隆一郎先生、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 2008年から2010年にかけて、朝日新聞社で先生が担当された論壇時評の委員会に、私も二年間参加させていただきました。本当に、いろいろと学ばさせていただきました。その節は、ありがとうございました。

 本書は、その2008年以降の日本の論壇について、先生の見解をまとめています。一つの大きなビジョンに結実していると思います。随所に、ネタの仕込みが効いていますね。あらためて、この数年間を振り返ってみますと、民主党政権の誕生によって、諸政策は、どのように変換されたのか、ということがやはり大きな関心事になります。いわゆる新自由主義から、別の福祉国家主義に変化したのでしょうか。それともむしろ、ある種の重商主義(円安の下で輸出産業によって国富を増大する政策)から、別の「主義」になったのでしょうか。

本書で指摘されているのは、農家の戸別保障政策の難点、国立大学予算の削減(一千億円規模)、日本芸術文化振興会への予算削減(五億円規模)、の三つです。民主党は、いわば、国際競争力の開発と伝統的価値への支援を削って、その代わりに、子ども手当てや農家への保障でもって、お金を普遍主義的に配分しよう、というわけですね。こうした政策は、普遍主義的なリベラリズムといえるかもしれません。いずれにせよ、本書を拝読して、いかに小生がこの数年間、見落としてきた点がいかに多いか、ということに改めて気づかされました。