■ミュルダールの普遍主義はどこまで普遍的か20100427

ミュルダールの経済学―福祉国家から福祉世界へ

ミュルダールの経済学―福祉国家から福祉世界へ

藤田菜々子『ミュルダールの経済学』NTT出版

・藤田菜々子様、ご恵存賜りありがとうございました。

・ご高著を、じつは書評させていただきました。ちかく、『経済セミナー』に載る予定です。そのさわりの部分はこんな感じです。「今年最大の収穫となるだろうか。二〇世紀の福祉国家を擁護した最大の経済学者、ミュルダールの人生と業績の全体に迫る渾身作。満を持しての刊行だ。……」

スウェーデンにおける普遍主義的福祉政策とは、自己責任を問わず、また所得調査というプライバシー侵害を犯さずに、市民の権利としてニーズに見合った給付を行なうこと。この政策を提案したのは、メッレル(Möller 1952)で、宮本太郎によれば、「メッレルはミュルダール夫妻の構想が家族と市民社会への過剰な介入主義という性格を有していること[例えば、妊婦助成や児童手当てに際して、栄養指導や所得調査をすること]を嫌い、所得、現金給付等のより間接的な手段を優先した。その結果、行き過ぎた管理主義が回避された反面、既存のジェンダー関係は温存された」という。栄養調査などについて、プライバシーに踏みこまない普遍主義では、女性の解放は進まないが、官僚制の肥大化と裁量権の増大を防ぐことができる。これに対して反対に、プライバシーに踏み込むやり方は、女性の解放をすすめるが、普遍主義の理念を制約して、官僚制の肥大化をもたらしてしまう。いったい、どちらが望ましいのだろうか。ミュルダールはこの点で、普遍主義的ではない福祉国家を展望した、ということになるのだが。

・それにしても、ミュルダールの息子、ヤーンの著した本『嫌われた子』(邦訳あり)は、母アルヴァの子育てに対する批判の書のようですね。アルヴァはこの本が刊行されてから、失語症とひどい頭痛の症状に悩まされ、頭部の手術を受けたものの改善されなかったという。この話、衝撃的でした。