■愛は、相手の欲していないものを惜しみなく与えること

大澤真幸THINKING「O」第4号

大澤真幸THINKING「O」第4号

大澤真幸編集の雑誌『THINKING O(オー) 第4号』2010年7月、左右社

大澤真幸様、ご恵存賜りありがとうございました。

・特集「もうひとつの1Q84」、とても面白く拝読しました。もし村上春樹の小説に未来的な思想の萌芽があるとすれば、それは愛の問題だ、という読み込み。愛は、相手の欲していないものを、惜しみなく与えることでなければならない。もし相手に対して、相手が欲しているものをあげるだけなら、二人の関係はたんなる利益関係であって、相手にとってそれは、利益になるだけにすぎない。だが愛は、利益関係を超えたところに、純粋なものとして成立するのではないか。だとすれば、相手が欲していないものを、相手に与えることが、その表現でなければならない。では相手の欲していないものを与えて、愛されない場合、嫌われる場合はどうなのだろう。それでも純粋な片思いは成立する。

・1968年を頂点にして、「理想の時代」はその後、リンチ事件に代表されるような、末期的な症状をみせた。けれどもこの時代は、別の観点から見れば、見田のいう「夢の時代」でもあった。人々はコミューンを夢見て、生活協同組合や、三里塚闘争や、公害問題への取り組みなど、共振できる人間関係を求めて、オルタナティヴな実践に向かっていた。これらの「夢」を追い求める人たちは、ある程度まで実行可能な、しかも健全な、夢を追っていたということができる。

原理主義者は、「知」と「信」を重ねてしまうが、本当の信仰は、「知」と矛盾するがゆえに、純粋な「信」になる、ということ。