■リーマンショックを分析するツールとしてのマルクス主義

資本の〈謎〉――世界金融恐慌と21世紀資本主義

資本の〈謎〉――世界金融恐慌と21世紀資本主義

デヴィッド・ハーヴェイ『資本の〈謎〉 世界金融恐慌と21世紀資本主義』森田成也、大屋定晴、中村好孝、新井田智幸訳、作品社、2012年

森田成也、大屋定晴、中村好孝、新井田智幸様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 リーマンショック後の経済危機を、強靭な思考力で分析しています。なぜ私たちは、経済危機から逃れられないのか。この問題を、マルクス経済学の枠組みを用いて、これほど豊かに展開できる人は、おそらくハーヴェイ以外にいないでしょう。マルクスの分析ツールは、依然として有効であり、また応用可能であることが、ハーヴェイの手腕によって示されます。
 本書の最後に、「何をなすべきか? 誰がなすべきか?」という章があります。よく、マルクス主義関係の本は、現状分析に徹して、実践的な処方箋を与えないものが多いといわれますが、本書は、まさにこの実践的な問題に、多くの思索を残しています。この思索を読むと、マルクス主義の本質が、よく分かります。
 現代のマルクス主義は、政府による垂直的なシステムを批判して、自律分散型の、自己統治的な生産者と消費者の集合体のネットワークというものを、構想しています。しかしこの理想は、無政府主義的伝統とのあいだに、一定の収斂を生じさせているでしょう。ハーヴェイは、この傾向を認めた上で、ラディカルな平等主義や、生産の組織化、労働過程の機能の仕方などが、練り直されなければならない、と指摘しています。ケインズ主義は、労働者にとって解決になっていない、という現実を認識した上での指摘です。
 そうなると、現代のマルクス主義は、ある意味で、新自由主義の一種に近いマクロシステムを容認することになるかもしれません。それはすなわち、中間集団コミュニタリアニズムを中核とする自生的ネットワークという理想です。そのように理念に立脚した上で、では、新自由主義と何が違うのか。それはすなわち、資本に強奪されない領域を増やすべきだ、とする点でしょう。
 この問題について、私は最近、「アンダーグラウンド」という概念を発展させて、考えています。