■シュモラーのひねり

ドイツ経済思想史論集 I

ドイツ経済思想史論集 I

小林純著『経済思想史論集Ⅰ』唯学書房

小林純様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 クニースは、人間の行為をめぐる因果律は、けっして経験則によって把握できるものではなく、人間的要素の変化に応じて、変化すると考えました。しかし他方で、そうした「変化」をも考慮に入れて、歴史の発展法則を構想することはできる、と考えたわけですね。
 人間的要素の変化というのは、この場合、意志の自由とか人格の自由と呼ばれるもので、これらの自由のために、人間の行為には、経験則があまり妥当しないことになります。
 ところがシュモラーは、人間の行為の領域でも、心理的な因果連関は構成できる、と考えました。ただしシュモラーは、そうした因果律から、法則を獲得できるようになるのは、ずっと先のことだろうと考えて、個別研究を重視し、性急な「法則の定立化」は避けるべきだ、と主張したのですね。
 経済発展を支える人倫の発展法則というものは、シュモラーのような歴史学派によっても認められていた。それが意味するところは、両義的です。
例えば、個別の民族精神にもとづくナショナリズムを持ち出さなくても、国民経済のナショナルな発展を展望する道筋があるのかもしれません。しかしそのような道筋が見えない現状では、個別の民族精神に訴えることも必要になってくる。そのような関係について、把握する必要があるのでしょう。