■ケインズは新しいタイプのジョン・ローだ

貨幣論集 (ハイエク全集 第2期)

貨幣論集 (ハイエク全集 第2期)

ハイエクハイエク全集Ⅱ-2 貨幣論集』池田幸弘・西部忠訳、春秋社

 池田幸弘様、西部忠様、ご恵存賜り、ありがとうございました。
 ハイエク全集の第二期ということで、本書は、ハイエクの『貨幣発行自由化論』の新訳を含んでいます。私は学部生のころ、この『貨幣発行自由化論』を読んで、まったく実効性がないハイエクの提案に驚き、また思想的な刺激を受けたのでした。
 本書に所収されている論文「通貨の選択」の補論「古くからの迷信」で、ハイエクは、ケインズを批判しています。それはいまのリフレ論議と大いに関係するので、一部引用してみます。
 「私には、ケインズはいつも新しいタイプのジョン・ローのように見えていた。ケインズと同じように、ローは実際に貨幣理論に貢献した金融界の天才だった(…)。ローは『このような追加的な貨幣は働いていない人を雇用し、すでに働いている人にも大きな利益を与える。このようにして、生産物は増加し、製造業は発展していく』と述べている。ローと同様に、ケインズはこのような誤った、しかし人口に膾炙(かいしゃ)した[多くの人にとって口当たりのいい]信念から決して自由になれなかった。」(20頁)
 ジョン・ローからケインズに至るインフレ主義の歴史について、ハイエクは誰かが書くべきだ、と述べています。過去150年にわたって、この種のインフレ政策は、失敗であったのであり、独創性に富む人々の知的努力は、繰り返し無駄に費やされてきた、というのがハイエクの見解です。
 インフレ政策(脱デフレ政策)は、短期的には成功するかもしれません。けれどもその副作用は、市場の健全な調整作用を失うことであり、長期的には、無駄な生産と停滞をもたらすでしょう。日銀法を改正してまでインフレーションを導くべきかどうかについては、大いに議論が必要ですが、政権交代のための政策の焦点とすべきではなく、むしろ参議院を通じて、慎重な仕方で、超党派的な合意を得るべき政策問題であるようにみえます。