■スカイツリーは、「バベルの塔」か、それとも「ストゥーパ」か。

東京スカイツリー論 (光文社新書)

東京スカイツリー論 (光文社新書)

中川大地『東京スカイツリー論』光文社新書

 中川大地様、ご恵存賜り、ありがとうございました。
 大変な力作ではないでしょうか。様々な資料を猟歩して、スカイツリーの歴史的・社会的イメージを豊かに浮かび上がられています。スカイツリーとは、私たちの文明の、一つの誇りとして位置づけられるほどの建築物なのですね。
 中沢新一によれば、「塔(タワー)」には、二つの系譜があります。一つには、農耕による富の蓄積によってはじめて国家文明を築いたメソポタミア文明(あるいは黄河文明)における、「バベルの塔」の系譜。もう一つには、インドの古代神話のような、国家以前の新石器時代までさかのぼる、原初的な思考法に基づく「ストゥーパ(仏塔)」の系譜です。
 「ストゥーパ」というのは、大地のなかで、墓地や生命の根源につながるような、非線形的で無意識的な、本質的構造をもっています。建物の上部には、きまって、渦を巻いた開口部があり、それは、子宮内から外へ立ち上がることが表現されているとも考えられます。
 こうした「ストゥーパ」の要素を、中沢新一は、東京タワーや通天閣にみてとります。しかし、スカイツリーにはストゥーパの要素がない、と論じます。これに対して本書は、いや、スカイツリーにもストゥーパの要素があって、周囲の土地全体が、震災と戦災の墓地なのだというのですが、なるほど説得的に論じられていると思いました。