■ ロマン主義の思想

ロマン主義の経済思想―芸術・倫理・歴史

ロマン主義の経済思想―芸術・倫理・歴史

塩野谷祐一ロマン主義の経済思想 芸術・倫理・歴史』東京大学出版会

塩野谷祐一先生、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 「ロマン主義」とは、創造的な個性というものが、社会全体の有機的な結びつきと不可分をなしている、と考える思想です。創造的な個性を重んじる人でも、自分の創造性が、はたして、社会全体と有機的に結びついているかについては、疑問に思う人もいるでしょう。ロマン主義個人主義を否定しませんが、個人が全体と調和する社会を理想として、そのような制度の下で個人の「卓越」も可能になっていると考えます。
 「卓越」というのは、人間の能力が全幅的な仕方で、つまり総合的で革新的で、ダイナミックで創造的な仕方で発現することを意味します。それはコミュニタリアニズムが目指す世俗的な社会とは異なって、もっと自己超越的な企てです。その企てが、根本的なところでは、芸術に対する感性や芸術を解釈する学によって成り立っている、つまり「ポエジー」と「イロニー」によって成り立っている、というのが興味深いですね。こうした芸術的知性を基盤にして「社会」を考える立場は、私の分類では「近代卓越主義」になると思います。その思想伝統として、ラスキン、グリーン、そしてシュンペーターが重要な位置を占めるというのは頷けます。