■社会に憤慨する力をもたないエリートたちは失格


ジャック・アタリ『危機とサバイバル』作品社

林昌宏様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 わずか38歳でフランスのミッテラン大統領特別補佐官を務め、1991年には48歳で自ら提唱した「ヨーロッパ復興開発銀行」の初代総裁になる。1992年のEU成立の影の立役者ともいわれているジャック・アタリ。彼の講演のネタ本です。
 21世紀を生き抜くための7つの原則について語られています。どれもおっしゃる通りで、改めて自分と自分を取り巻く組織の診断を受けるような気分になりますね。読者に「喝」を入れるための内容になっています。
 興味深いのはやはりエリート層に対する批判。「今日の日本には「怒る力」「憤慨する能力」が不足している。とくに衰弱したエリート層に対して、日本人は憤慨すべきだ。」というメッセージ。革新的に思考して、憤慨するときが訪れたのである、という言い回しは、とにかくこれだけ豊かになった日本、これから衰退するであろう日本に対して、まさに「憤慨する能力」がなければエリートとして失格、日本はダメになる、と言いたいのでしょう。
 フランスの場合は、すでにそのような憤慨の政治が顕著ですね。日本もやがて、エリートであれ対抗エリートであれ、どのように憤慨して社会全体に喝を入れるのか、ということが統治の大きなポイントになるのではないかと思いました。怒る力をもたず、満たされた生活のなかでますます衰弱していくエリートたちに、一喝の書です。
 でも結局、この社会をどうすべきかについての規範構想については、語られていません。