■新自由主義は小さな政府を実現できなかった

社会思想の歴史―マキアヴェリからロールズまで―

社会思想の歴史―マキアヴェリからロールズまで―

坂本達哉『社会思想の歴史』名古屋大学出版会

坂本達哉様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 新自由主義の勃興と、「ベルリンの壁」以降の世界の激動は、本来、何も関係ないという指摘はその通りだと思います。また、新自由主義が台頭したと言っても、政府の規模は着実に大きくなっているという指摘も重要です。
 小さな政府を目指すはずの新自由主義は、イデオロギーとしてはケインズ主義や社会主義に代わって支配的になったものの、小さな政府を実現しているわけではありません。
 ハイエク自身、社会がゆたかになるにつれて、生存保障の最低限度もまた、上昇するだろうとみていました。またその水準を満たすことが政府の役割であり目的である、と考えていました。ハイエクは、政府が特定の目的をもった「組織」であると理解していましたが、政府が何らかの目的を追求することそれ自体が悪いのではなく、そのような目的を達成するための方法として、自律分散型のシステムを採用することが望ましい、と考えていたのでしょう。(『自由の条件III 福祉国家における自由』9)
 ハイエクは政府の営みを、諸個人の多様な目的に仕えるための普遍的な手段(自由の条件)としてみるのではなく、生存権の要求を満たすという、集合的な目的を実現するための装置としてみていた、という理解は重要であると思いました。