■ダイナミックなケイパビリティを定義する
- 作者: C.ヘルファット,谷口和弘,蜂巣旭,川西章弘
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2010/03/26
- メディア: 単行本
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C.ヘルファットほか著『ダイナミック・ケイパビリティ 組織の戦略変化』谷口和弘/蜂巣旭/川西章弘訳、勁草書房[2010]
谷口和弘様、ご恵存賜りありがとうございました。
・ダイナミック・ケイパビリティの原初的な定義は、組織の現行の慣習・学習パタンを統合したり再配置したりして、急速な環境変化に対応する能力、といえる。環境の変化が緩やかな場合には、組織は、いま使える資源を最大限に使うための戦略を立てることができる。これをオペレイショナル・ケイパビリティと呼ぶことができる。これに対してダイナミック・ケイパビリティとは、組織の資源ベースを、創造・拡大・修正する能力のこと(2頁)。例えば、買収、戦略的提携、新規参入、新しい生産プロセスや新しい製品の開発、などに発揮される能力である。
・企業は乱気流的な環境の下で、短期的な利潤の最大化を追求するのではなく、資源ベースのダイナミック・ケイパビリティを追求する、という仮説を立てることができる。ここでは変化する市場環境をどのように識別するか、という認識が重要。
・どれだけ多くの子孫を次世代に残せるか、という進化的適合度への戦略が、ダイナミック・ケイパビリティの尺度となる。どれだけ儲かるのかを問うのではなく、組織がどれだけ進化するかを問う。しかし、この組織がどれだけ存続しうるのか、と問うのではなく、どれだけ子孫を増やせるのか、と問う。この場合の子孫とは、必ずしもその組織である必要はないだろう。また、この組織がどれだけ成長しうるのか、という戦略を問うのではなく、たとえ個々の成長が実現しなくても、潜在的な可能性そのものをいかに増大させることができるのか、そのための戦略を問う。さらに、価値創造の質を現実的に問うのではなく、例えば買収や提携の場面で、他者との豊かな関係を築くための能力を問う。加えて、一定の競争環境の下での「競争優位」を問うのではなく、競争環境が変化するなかでダイナミック的な進化を遂げるための資源を問う。ダイナミック・ケイパビリティの概念は、こうした問いかけを、研究プログラムとして体系化していくためのハード・コア理念だといえる。ただしこの点にかんして本書の記述はもっと実践的で、理念としては妥協的。グローバルな提携、買収、合併などによって、急速に再編されるビジネスの実践知を、模索する。