■市場が十分に発展していないから、金融危機

日本の失われた20年 デフレを超える経済政策に向けて

日本の失われた20年 デフレを超える経済政策に向けて

片岡剛士『日本の「失われた20年」』藤原書店、2010年

・片岡剛士様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

リーマン・ショック以降の世界金融危機。その原因と教訓について、岩田規久男[2009]の整理を紹介する。それによると、CDSといった金融派生商品は、相対型で取引されていたという。金融取引に関するリスクの根幹部分は、証券化できなかった部分の「リスク」であり、それはつまり、市場の価格シグナルによって調整されていたのではなく、そもそも市場では相手を見つけることができなかったがゆえに、相対取引になっていた。だからその資産価格が下がると、市場でそれを売買するための価値判断を、スムーズにすることができなかった。これはつまり、市場主義が金融危機をもたらしたのではなく、反対に、リスクが高いものについて、市場価格の外部で取引をしてしまったからこそ、危機が生じた、ということである。ありうる規制としては、市場価格を媒介しない相対型の取引を、制約することであろう。これは自由な契約を制約することになるが、しかし市場を制約することにはならない。むしろ重要な意義をもつハイリスクの取引を「市場化」することを意味する。自己組織化された市場とは、このような人工的操作を必要としている。自生化主義の統治術として。