■新しいウェーバー像の誕生

大学人ヴェーバーの軌跡―闘う社会科学者

大学人ヴェーバーの軌跡―闘う社会科学者

野崎敏郎著『大学人ヴェーバーの軌跡』晃洋書房

野崎敏郎様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

多くの一次資料に丹念にあたりながら、大学人としてのウェーバー像を新たに浮かび上がらせた労作です。長年のご研究の成果をまとめられましたことを、心よりお喜び申し上げます。

シュモラーは、弟子たちを次々に大学のポストに就職させて、一つの大きな学派(歴史学派)を育成しました。シュモラーは、階級利害の代弁者は、大学教員たり得ない、という信念を抱いていたようですね。そのような「非党派性」を武器にして、彼は、党派的な研究者たちを退けていきます。ところが、そのような「非党派性の欺瞞」に対して、真正面から挑んだのが、ウェーバーでした。

大学では、なにごとも「価値中立的」に教えなければならないのでしょうか。そのような非党派性は、結局のところ、社会全体の利益を代弁するような価値観点を、背後から忍ばせて、福祉国家を正当化する党派的な議論になってしまう。ウェーバーは、そのような関心から、シュモラーの欺瞞性を見抜いていきました。

もう一つ、マリアンネ・ウェーバーによるウェーバー伝は、不備が多いということで、本書は、マリアンネの描くウェーバー像とは、別の像を提起しています。新しい像を打ち立てるという探究は、本当に、骨の折れる作業であったと思います。ウェーバーは、大学では、きわめて特異な職位を与えられていたようですね。発病、休職、退任(降格)願、等々。大学での職務に関するデリケートな問題が、適切かつ詳細に再構成されています。

それにしても、ウェーバーが、歴史に残る大著を書くために、これほどまでに苦しい経験を乗り越えたということに、あらためて驚きます。本書を通じて、私は、ウェーバーの精神生活を、さらに深く理解することができました。