■安定志向の罠

平成幸福論ノート 変容する社会と「安定志向の罠」 (光文社新書)

平成幸福論ノート 変容する社会と「安定志向の罠」 (光文社新書)

田中理恵子『平成幸福論ノート』光文社新書

 田中理恵子様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 とても面白く読ませていただきました。経済社会学のホームとなる出発点は、やはり、こういう議論ではないか、と思いました。現代の経済現象を大局的に捉えながら、いろいろな出来事やデータを解釈していく作業ですね。ネタの仕込みが随所に効いています。しかも一つの筋の通ったテーマが浮かび上がってきます。

 いま私たちに必要な議論は、文明の衰退論です。日本はいずれ、衰退する。そうであれば、一歩退いた生活に、私たちは満足を見出すことができなければなりません。一歩後退した地点に「幸福」を見出すためには、何が必要でしょう。他国との競争に勝つ、といった目標を掲げるよりも、無理しないで、幸せに暮らすこと。そのような関心が広まると、しだいに、「成長」と「幸福」が乖離してくるかもしれません。

 成長を願う人は、幸福になることができない。あるいは、幸福を願う人は、成長することができない。そんなギャップが生まれるかもしれませんね。しかも、安定志向で幸せを求めても、実は幸せになれない、という逆説も生じるので、そのような社会での処世術は、なかなか難しいものになるでしょう。

 この他、日本の男性は世界一孤独であるとか、生涯未婚率が急上昇しているとか、日本人は年齢とともに幸福度が下がるとか、高齢者と孫世代の所得格差は一億円であるとか、いろいろ考えさせられました。

 GNHの指標も、対抗的で興味深いです。とくに、資源消費量(エコシステム)の少ない順に、「幸せ」のランキングを考えるという点。どれだけ資源消費量を抑えて、各種の指標で「幸せ」になるか、という問題関心ですね。こうして、いろいろな指標について議論する状況が生まれているのは、歓迎すべき現象です。