■福祉思想の三つの文脈


小峯敦編著『経済思想のなかの貧困・福祉』ミネルヴァ書房

小峯敦様、太子堂正弥様、松山直樹様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 1910年代から20年代にかけての福祉思想は、第一に、マーシャルからピグーの系譜、第二に、異端のオクスフォード出身者たち(ラスキンの影響を受けたホブソン、トーニー、コール)およびポランニーの系譜、第三に、現実主義者たちの系譜(キャナン、チャップマン、クレイ)、という三つの流れがあるのですね。この整理で、随分と見通しがよくなりました。

 それにしても、やはり歴史に残るのは理論であり、現実に密着した政策論議というのは、その時代の文脈を超える理念的なメッセージを含むわけではなない。これは、理論の含意を現実に引き出すという「判断力」の次元と、現実の問題を思想的に深化させるという「思想力」の次元の違い、ということになるでしょうか。

 本書に収められた諸論文は、いずれも高い水準で、しかも、共有された問題に対して、ストレートに探究しています。どの論文からも、多くの示唆を得ました。巻末の人物一覧も、役立ちます。