■ロールズの原初状態を刷新するために

政治経済学の規範理論

政治経済学の規範理論


田中愛治監修、須賀晃一/斎藤純一編『政治経済学の規範理論』勁草書房

田中愛治様、須賀晃一様、斎藤純一様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 中心的な問題となっているのは、ロールズの原初状態の前提を、いかに書き換えるか、という点です。ロールズに対する諸批判を踏まえて、もっと現実的で、さらに最近の行動経済学の成果を踏まえた人間学的想定を加味して、その上であらたな社会契約論を展開すること。それが現在、規範理論家にとって求められている仕事なのでしょう。本書はそのための予備考察的な内容を多く含んでいます。何が問題であるか、とくに第一章と第二章を読めば、おおよその状況を掴むことができます。

 トヴェルスキーとカーネマンによる行為の非合理性という問題を考慮に入れたとき、はたして原初状態での選択は、まともな正義理念の採択にいたるのか、という問題があります。この問題をどのように考えるか。正義の一般的な状況においては、行為の非合理性という真理的問題は発生しない、と想定するのか。それともやはり、正義の一般的な状況においても、人々は非合理的な選択をしてしまう、と想定するのか。もし非合理的な選択をしてしまうのだとすれば、やはりモデルとしては何が合理的であるかを示すための利得構造をもったものでなければならず、それは帰結主義的な思考を正当化することになるかもしれません。井上彰論文はこうした問題の端緒に触れています。

 ヴァン・パリースのいうリアル・フリーダム(実質的自由)が、ベーシック・インカムのたんなる形式的な給付ではなく、さまざまな現物給付を含んでいることのまとめとして、辻健太論文、244-245頁が参考になります。