■民主主義ではなく商業の相互依存こそが平和をもたらす

国際政治哲学 (Nakanishiya Companions to Social Science)

国際政治哲学 (Nakanishiya Companions to Social Science)

小田川大典/五野井郁夫高橋良輔編『国際政治学』ナカニシヤ出版

小田川大典様、五野井郁夫様、高橋良輔様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 国際政治学に関して、かなりまとまった内容の、気合の入った教科書になっています。現代の議論を一通り要約してみせるその力量に、感服します。とくに第一章は、すばらしい導入になっていると思います。

 第四章の「民主的平和論」(多胡淳)は、計量国際政治学の紹介であり、とても示唆的です。例えば、「戦死者を1000人以上ともなうような規模の大きな戦争」を、民主主義の国が積極的に仕掛けた場合には、14勝1敗、逆に仕掛けられた場合には、21勝7敗、という統計が得られているという。これに対して独裁国家の場合、戦争を仕掛けた場合には21勝14敗、仕掛けられた場合は、16勝31敗であるという。
 フマンズの研究によれば、民主主義国では、戦争に部分的に負けるだけでも、政府はその政治生命を絶たれてしまう場合が多い。これに対して独裁国家では、戦争に限定的に負けても、政権を維持できる確率が高いという。

 他方で、ガーツキーは、民主主義が平和をもたらすのではなく、商業の相互依存関係が、国際平和をもたらすということを、実証的に分析している。戦争をするというのは、相手の国から商業を引き上げることを意味するので、そのコストが高いときには、戦争は起きにくいだろう。したがって、経済発展が進めば、相互依存関係を深めた近隣諸国とのあいだに、戦争は生じなくなるだろう。むしろその場合には、遠隔地での戦争が生じる可能性がある。
 あるいはまたガーツキーによれば、経済的相互依存の関係が深まれば、政治に関する選好や意見も一致するようになり、例えば、国連の総会決議に対する投票にも、その一致の度合いが見て取れるという。
 こうした実証から考察すべきは、北朝鮮やイランなどに対して、民主主義を要求するのか、それともまず経済的な相互依存の関係を築くべきなのか。そういう規範的な議論でしょう。民主主義化を強調する立場は、国際政治的には、軍事的強行主義と結びつく可能性があります。