■ハイエクは実物的な経済分析へ回帰した

資本の純粋理論 ? (ハイエク全集 第2期)

資本の純粋理論 ? (ハイエク全集 第2期)

ハイエク著『資本の純粋理論Ⅰ』ハイエク全集第二期、第八巻、江頭進訳、春秋社

江頭進様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 1941年に刊行された本書は、1962年に一谷先生が翻訳を刊行されています。その訳を全面的に改定した新訳(二分冊で刊行予定の第一分冊)が、このたび、江頭先生の手によって刊行されました。大変重要な本の翻訳だと思います。新訳の刊行を、心よりお喜び申し上げます。
 ハイエクは、この本を出した後に、狭義の専門的な経済学の研究を離れて、社会科学全般を扱う思想家としての道を歩み始めました。本書の内容については、ハイエクが専門的な理論研究の新たな発展に行き詰ったのではないか、その試行錯誤の軌跡ではないか、というようなことがいわれています。本書をどのように評価すべきかについては、いろいろと議論があるでしょう。
 いずれにしても、解説で池田幸弘氏が指摘しているように、ハイエクが本書で、もう一度「均衡」分析の有用性を認め、しかも実物的な分析に回帰しているというとは、重要です。ハイエクには、貨幣的側面に焦点を当てたケインズの理論とその政策的含意に対抗し、実態としての経済が自生的な安定性を保持しうることを証明するという、そういうモチーフがあったのかもしれません。
 本書の後半の翻訳も、楽しみにしています。