■調和のとれたウェーバー理解と倫理学の根本問題

ウェーバーの倫理思想: 比較宗教社会学に込められた倫理観

ウェーバーの倫理思想: 比較宗教社会学に込められた倫理観

横田理博『ウェーバーの倫理思想』未來社

横田理博様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 著者のこれまでのウェーバー研究の集大成です。倫理学の根本問題に、もっとも困難ではありますが、他の学説・倫理思想との粘り強い比較を通じて、ウェーバーの思想の本質を明らかにしています。
 私は拙著『社会科学の人間学』で、「責任倫理」の問題を分析しましたが、本書では「心意倫理(信条倫理)」の概念が徹底的に分析されています。また、同胞愛、神義論、ルサンティマンなどの重要な概念が、徹底的に探究されています。ウェーバーを倫理思想家として理解するための、必読の研究書といえるでしょう。
 その関連で、山之内靖のウェーバー理解に対する批判が展開されていますが、それはある意味で適切であり、正当なウェーバー理解に基づくものです。ただ本書で著者は、独自の観点から鋭くウェーバーの思想を再構成しているのではなく、客観的で一般的なウェーバー理解を提供するという仕方で、ウェーバーの思想が再構成されています。
 するとウェーバーというのは、さまざまな思想、さまざまな階層の人々の生き方に、「共感」を示している。その上で、あれも「共感」できる、これも「共感」できる、しかしそれぞれの立場は緊張関係に置かれており、「神々の闘争」を避けることができない、という具合の態度表明になるわけです。しかし、どの立場にも「共感」できる人というのは、たんなる優柔不断な価値相対主義者(よく言えば、開かれた文化多元主義者)でないとすれば、どんな精神の持ち主なのか。それはある意味で、山之内さんのいう「精神的貴族主義」に近づくことになり、それをウェーバーの具体的テキストに読み込むという方法は、一つの解釈たりえるでしょう。
 それよりもなによりも、同胞愛や神議論やルサンティマンといった概念の奥深さを、あらためて理解しました。とりわけ、ウェーバーニーチェ理解が誤っていた、というのは衝撃的です。本書の体系的な研究成果から、多くを学びました。