■創造的な研究者になるための知恵
アーティストのためのハンドブック 制作につきまとう不安との付き合い方
- 作者: デイヴィッド・ベイルズ,テッド・オーランド,野崎武夫
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2011/11/25
- メディア: 単行本
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デイヴィッド・ベイルズ/テッド・オーランド『アーティストのためのハンドブック』野崎武夫訳、フィルム・アート社
野崎武夫様、ご恵存賜り、ありがとうございました。
全米で20年間読み継がれてきた、アーティストのための手引書です。アーティストだけでなく、創造的な研究をしようとしている学生諸氏にも、読んでもらいたい本です。創造的活動のための知恵が詰まっています。
「人生は短く、技術の道は長く、好機は流れ、経験は頼りにならず、そして判断は下しがたい。」(ヒポクラテス[医師])
いい言葉ですね。
医者も、弁護士も、アーティストも、ギリシア的に言えば「フロネーシス」を扱う職業で、その困難はいずれも、似ています。
アーティストは、作品作りが職業として成り立つ可能性が不確実なので、アーティストたちの多くは、途中で作品づくりをやめてしまいます。つぎの努力も無駄になるだろうと思い、やめてしまいます。そうならないために、作品を制作している友達を作ろう、というのが、重要なアドバイスの一つです。
学者も、だんだん論文を書かなくなりますよね。学者の場合も、研究生活の先行きは、どんな友達を持つかに依存しているのではないでしょうか。
もう一つ、「自分の可能性」を想像する力について。アーティストにとって、これは重要な能力でしょう。かつて、詩人のスタンリー・クニッツは、「頭の中にある詩はいつも完璧である。しかしそれを言葉に置き換えようとすると、抵抗が始まる」と述べたことがあります。これがアーティストにとっての真実なのでしょう。アーティストは、すでに可能性として、自分が偉大な作品を作った夢を想像することができなければなりません。研究者の場合も、そのとおりでしょう。この想像力が先行しないと、創造的な作品は生まれない。
第三に、アーティストにとって、才能は、必ずしも必要ないということ。
完璧さを追求しようとすると、人はかえって、活動をやめてしまう。自分の不完全性に耐えられなくなるからでしょう。研究者の場合もそうです。ある程度いい加減じゃないと、創造的な活動を続けることができない。
第四に、作品が「価値あるものとして承認されること」と、作品が「アートとして認められること」のあいだには、亀裂・断絶があるということ。これは鋭い指摘です。アートというのは、根本的なところで、承認欲求を満たすために生み出されるものではない。むしろ承認とは関係のないところで生み出されなければならない。これは芸術をめぐる、本質的な問題です。
最後に、大学でアートを学ぶことについて。大学では、教員も学生も、問題をかかえています。むしろ創造的なアーティストになるためには、「自叙伝」を読むことが役に立つ。芸術が生まれるプロセスが書かれているから、というわけです。
「自叙伝」は、創造的な研究者になるためにも、大いに役立つでしょう。芸術家の一生を描いた伝記(あるいは映画)は、研究者にとっても必要だと思いました。
いろいろな刺激を受けました。学生に読ませたい、いい本です。