■ハイエクに対する誤解を解く

ケインズとハイエク―貨幣と市場への問い (講談社現代新書)

ケインズとハイエク―貨幣と市場への問い (講談社現代新書)

松原隆一郎ケインズハイエク講談社新書

松原隆一郎先生、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 これまで先生が書かれた本のなかで、もっともアカデミックな内容ではないでしょうか。ケインズハイエクの論争が、とても丁寧に追跡されています。
 むろん、ケインズの思想は、規範理論としてみれば、あまり見るべきものがありません。ケインズの「自由」概念や、「干渉主義」のような理念を研究してみても、それほど深みのある考え方を見いだすことはできないでしょう。ですからケインズハイエクの対立は、思想的というよりも、むしろ貨幣論や市場理論をめぐる経済学的な次元、あるいは方法論の次元での対立であり、本書の大部分はその対立を解明するために、費やされています。
 ハイエクは一般に、小泉改革に代表されるような新自由主義の論客とみなされていますが、本書はそのような理解に対して、根本的な批判を提起しています。
 
「だが規制や慣行を撤廃せよと説く構造改革ほど、彼の思想から遠いものはないだろう。というのも、ハイエクが唱えたのは中央銀行のみならず民間の銀行にも規制をかけることであったし、慣行を前提にその組み替えを原動力とする自由社会を築くことだったからだ」。

 結局、経済思想の威力というのは、その都度の時代の政治的な布置連関を超えて、政策を導くための体系的な解釈装置を提供することにあるのでしょう。そのような装置を用いて、私たちは政策を賢く考えることができるのでしょう。