■「同盟」と「連邦」の違いについて

ロカルノ条約 - シュトレーゼマンとヨーロッパの再建 (中公叢書)

ロカルノ条約 - シュトレーゼマンとヨーロッパの再建 (中公叢書)

牧野雅彦『ロカルノ条約』中公叢書

牧野雅彦様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 前作『ヴェルサイユ条約』に続くご研究の成果です。とてもすぐれた歴史叙述であるだけでなく、国際秩序はいかにして可能か、という政治思想の根本的な問題に迫ります。
 ナチスが台頭する以前のヨーロッパの国際秩序は、1925年のロカルノ条約によって形作られ、1933年にヒトラーが政権を取り、1936年ごろ(ラインラント進駐)まで続いたと考えられます。
 この秩序をどうみるか。本書の第10章で、この条約に関するカール・シュミットの見解が検討されています。シュミットの洞察力は鋭いです。
 シュミットによれば、「連邦」というのは、「同盟」以上の国際秩序です。連邦は、諸国の法秩序に修正を求め、同質的な国家秩序を単位とします。「連邦」は、政治的・軍事的な秩序であることに加えて、法的な秩序です。そこには「正統な秩序」とはなにか、についての合意が必要です。
 それまでは「力の均衡」が、国際的な法秩序の正統性を担保していました。しかし国民国家の形成・成熟とともに、「民主主義」と「民族自決」の理念が、法秩序の正統性を担保するようになります。神聖同盟モンロー・ドクトリンは、いずれも「連邦」の特徴を備えています。
 けれども、敗者(ドイツ)に対する無制限の経済的搾取は、「講和」に基づく「正統な秩序」を生み出すことに失敗している(隠蔽している)。
 1926年の国際連盟は、シュミットの見るところ、アメリカの帝国主義統治の一環として位置づけられるのであり、ヨーロッパにおける「真の連邦」ではありません。真の連邦が形成されるためには、フランスとドイツが対等な関係に立って、なおかつ、イギリスとイタリアという第三国が、仲裁・裁判官的な役割を果たす場合でなければなりません。そのような国際関係は、あまりにも理想的かもしれませんが、それが築けたときに、ナチスの台頭を阻止することができたかもしれません。そうした可能性が残ります。
 ロカルノ条約をどのように捉えるべきか、という問題は、世界秩序をどのように考えるべきか、という問題に関係します。私たちはナチス台頭の歴史から、学ばなければなりません。