■「正義」と「ジャスティス」のあいだ

いまを生きるための思想キーワード (講談社現代新書)

いまを生きるための思想キーワード (講談社現代新書)

仲正昌樹『いまを生きるための思想キーワード』講談社現代新書

仲正昌樹様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 いつも「あとがき」から読ませていただいていますが、今回はまじめなあとがきでありましたので、かなり気合の入った入門書になっているのではないかと思い、私の研究分野と重なる箇所を読ませていただきました。
 癖のない、初学者におすすめの、信頼できる「キーワード事典」に仕上がっています。
 日本語の「正義」という言葉には、「正義の味方」という用法があり、社会の「善」を体現したヒーローが、世の中を救ってくれる、というイメージがあります。ヒーローは、絶対的な正しい存在で、「絶対善」を体現していなければなりません。
 けれども、そんな人はほとんどいない。マイケル・サンデルのおかげで、日本でも規範理論に対する関心が高まっていますが、サンデルらが用いる英語の「ジャスティス」は、人情に訴えるところがなく、社会の条件のようなものを想定しています。
 いずれにせよ、これまで日本で「哲学ブーム」といえば、人々の心のなかに入ってきて癒してくれるような、「癒しのための哲学」であったようにみえますが、サンデルのおかげで、そうではない哲学のスタイルを、私たちは「ジャスティス」論から学び始めた、といえるかもしれません。「正義」と「ジャスティス」の意味が異なる点に、注意が必要だなと思いました。