■ユダヤ人の「純粋な社会性」を求める運動

鶴見太郎著『ロシア・シオニズムの想像力 ユダヤ人・帝国・パレスチナ東京大学出版会、2012

鶴見太郎様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 これまでも御論文や会話を通じて、この本の内容について触れる機会がありましたが、こうして分厚い一冊の研究書として完成してみると、圧巻ですね。
 ヨーロッパのユダヤ人といえば、ホロコーストの関係で、ドイツをイメージする場合が多いけれども、ドイツのユダヤ人は当時、52万人。これに対してロシア帝国には、ユダヤ人人口全体約1060万人のうち、約半数の519万人が暮らしていたのですね。そのユダヤ人たちは、パレスチナでは主流からはずれているものの、アラブ人とは直接対峙しないで暮らしてきた、という点に、本書は注目しています。しかも、社会主義シオニズムや労働シオニズムには関心がなく、パレスチナにも行かないでとどまる「残留派」もいるわけです。
 かれらは、ユダヤ人でありながら、ユダヤ性の本質を欠いた運動を展開した、といえるでしょう。その運動は、純粋に「社会性」を求めるものであり、またその際に想像される「ネーション」は、多民族社会において、「一定の安定的基盤を得るための想像力」であって、具体的な国家の形成に結びついているわけではありませんでした。ただこうした「社会性」を求める考え方は、パレスチナではマイナーな考え方にすぎませんでした。ではどうすればよいのか。それが問題になるわけですが、いずれにせよ、ユダヤ人の多数派から、多民族の共生の仕方について学ぶことは多いです。