■資源がありすぎると民主化できない

ロシア新戦略――ユーラシアの大変動を読み解く

ロシア新戦略――ユーラシアの大変動を読み解く


ドミートリー・トレーニン『ロシア新戦略 ユーラシアの大変動を読み解く』河東哲夫・湯浅剛・小泉悠訳、作品社

河東哲夫様、湯浅剛様、小泉悠様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

著者は、カーネギー国際平和財団のモスクワ・センター所長。
本書は、ユーラシアの覇権を賭けた、ロシア・中国・アメリカによる政治ゲームについてまとめています。
本書の訳者解説は、とても重宝します。著者のトレーニンの認識では、ロシアという国は、16世紀に始まったヨーロッパの重商主義的な植民地主義の流れの上に建設されたままの国で、ルネッサンス宗教改革、あるいは国民国家の建設や民主主義体制の確立といったものを経ないまま、現在に至っている、といいます。ロシアの資源戦略は、基本的には、収奪・搾取型のそれだ、というわけです。
 国家は、法治主義、所有権の保証、市場メカニズム、社会的な結束、相応しい価値観、などによって、はじめて近代的な形態になります。しかしロシアは、そうした国家の近代化を十分に経ていません。ではなぜ、近代化が遅れるのでしょうか。
近代化を妨げている最も大きな要因は、おそらく、「広い国土」と「豊かな資源」でしょう。「国土と資源」が十分にあると、製造業が育たちません。十分な資源を売れば、暮らしていけるからです。すると、その資源を政治的に差配するごく少数の人々によって、社会が支配されることになります。こうなると、結局のところ、中産階級が育ちません。社会は、資源を差配する一部の支配者と、資源を差配される多くの貧民に分かれてしまいます。社会は、階層的な格差を広げたまま、非民主的な支配を温存してしまいます。そういう情況を、いかに克服するかということが、ロシアではずっと問題でありつづけている、というわけですね。