■会社好きの日本人というのは神話

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

橘玲『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』幻冬舎

橘玲様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 世の中には「成功哲学」と呼ばれる指南書がたくさんありますが、そんな指南書に従ってやってみても、実際にはできない、というのがほとんどの場合でしょう。「こうすれば成功する」という主張はほとんど無効です。
 それでも、社会のサバイバル感が増しているときには、何か成功するためのアドバイスが必要になります。無効だけれども、成功哲学は必要であるという、アイロニカルな状況ですね。
このこととはあまり関係ありませんが、本書が指摘するように、フロイトの「エディプス・コンプレックス」説が無効だという最近の研究成果は重要です。
 近親相姦を避けるというタブーの要請は、人間のみならず、チンパンジーやオランウータンにもみられるもので、その倫理は致死的な劣性遺伝子を避けるための進化論的合理性をもった倫理なのですね。
 フロイトと同時代のフィンランドの人類学者、ウェスターマークは、発達期に一緒に過ごした男女は、血縁かどうかに関わりなく、性的魅力を感じなくなることに気づきました。そうした身体的反応は、劣性遺伝子を避けるための、生物学的な戦略として獲得された性質なのでしょう。
 もう一点。本書には、小池和男日本産業社会の「神話」』日本経済新聞社のデータが紹介されていて、興味深いです。戦後の日本人は家庭よりも会社を大切にする「会社人間」だった、と言われますが、ここで示されるデータによると、国際比較では、日本人はそもそも昔から会社が嫌いだった、という結果が示されています。会社好きの日本人というのは、神話だったのですね。