■ 社会関係資本の強化という介入主義

ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書)

ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書)

稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル入門』中公新書

稲葉陽二様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 アメリカのペンシルヴェニア州にある、人口千数百人のロゼトという田舎町は、南イタリアのある村から移住してきた人たちが作った町です。スレートの石切り場が、主たる産業です。興味深いことに、この町の住民は1950年代から60年代にかけて、心臓疾患による死亡率が、周辺の町や全国平均と比べて大きく下回っていました。なぜでしょう。
 ある分析によれば、この町では「コミュニティの絆」が強いため、安心感が生まれ、それが心筋梗塞や突然死の可能性をきわめて低くした、というのです。
 本書はこのような分析に触発されて、日本の地域についての実証研究の成果を報告しています。近所の人々に対する信頼とか、親戚への信頼、近所づきあいや地縁活動への参加などから、コミュニティの絆が強いかどうかを分析します。すると、コミュニティの絆が強い地域では、健康である、病気になっても容易に支援が受けられる、などの結果が得られます。反対に、コミュニティの絆が強くないところでは、人々は孤立し、喫煙や飲酒や過食などに陥りやすい、ということです。
 ある程度まで想像つく結論ですが、言われてみると、改めて考えさせられます。政府は、個人に対して、健康に生きることができるように、介入することができます。例えば政府は、地方自治体を通じて、町おこしのための、さまざまな行事・サービスに公的資金を使うことができます。するとその結果、個人は安心して暮らすことができるし、健康にもなる。そういう社会関係資本がある社会に住みたいですね。