■目標は物価安定ではなく金融システムの安定

グローバル・クライシス

グローバル・クライシス

  • 作者: 原正彦,平井俊顕,岩本武和,秋葉弘哉,宅和公志,渡辺良夫,大野隆,黒木隆三,石倉雅男,内藤敦之,野下保利,吉田博之,鍋島直樹
  • 出版社/メーカー: 青山社
  • 発売日: 2012/11/23
  • メディア: 単行本
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原正彦編『グローバル・クライシス』青山社

原正彦様、鍋島直樹様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 20世紀の後半の50年間を、さらに前半(1950-1975)と後半(1975-2000)に分けてみますと、前半は「ケインズ全盛の時代」で、後半はその反動の、「ケインズ凋落の時代」だった、といえるでしょう。そして21世紀です。現在、ケインズの貢献が見直されていますが、本書は、現代のケインズ主義の観点から、経済の現状を分析した論文集です。
 ケインズは、失業問題を克服するために、政府による「投資の社会化」を提唱しました。長期的な視野から投資を安定させることが、クライシスを防ぐための方法だと考えました。
 長期計画にもとづいて、民間の投資が減少したときには、それを補うための「資本予算」を計上すべきである、とケインズ考えました。この発想は、短期的な裁量的政策とは区別されなければなりません。長期的な投資管理政策は、たんなるアドホックな短期的発想にもとづくものではありません。そもそも短期的な裁量政策の発想は、ケインズには見られない、というのが鍋島論文の主張です。
 鍋島論文の後半では、現代のポスト・ケインジアンの議論が紹介されています。ポスト・ケインジアンは、金利政策よりも、財政政策の有効性を主張する一方で、金融政策については、「物価の安定」ではなく、金融システムの安定そのものを目標とすべきだと考えます。この考え方は、「インフレ・ターゲット」を主張する最近のマクロ経済学者たちと、鋭く対立するものでしょう。アベノミクスには反対の立場になるのではないでしょうか。日銀の役割とは何か。改めて考えさせられました。