■言語の起源は記号のトートロジー的理解にある

動物的/人間的 1.社会の起原 (現代社会学ライブラリー1)

動物的/人間的 1.社会の起原 (現代社会学ライブラリー1)

大澤真幸『動物的/人間的 1.社会の起源』弘文堂

大澤真幸様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 これから全四巻で完結する予定の第一巻ということですね。最近の文化人類学社会生物学の成果を取り入れて、独自の理論をさらに発展させようとするその挑戦に、心から敬意を表します。
 チンパンジーの実験で、ある意味記号(例えば、きいろという色)が、それを表す概念(例えば、ひし形プラス横線の図形)を指示するということを、チンパンジーは理解できるようです。
 ところがその反対の因果関係となると難しい。おなじ抽象概念を示しても、それが「きいろという色」を意味することが、チンパンジーには、理解できません。
 「意味M→記号S」を理解できても、「記号S→意味M」という関係を理解できない。これでは言語を理解したことにはならないのではないか、というわけですね。この二つの相互的な因果連関を「同時に」理解できないということは、そもそもチンパンジーは言語を理解できず、したがって言語の起源を人類と共有していない、と考えられます。
 おそらく、記号Sが、それ自体として「きいろいもの」を意味するということを、チンパンジーは理解できなかったのでしょう。言語記号Sは、個々の意味の対象Mとは独立して、言語そのものによって意味されるものを意味しています。それはトートロジーによって定義されますが、にもかかわらず、言語記号として、意味を与えます。そのような言語の成立が、まだチンパンジーには見られない、ということなのかもしれません。いったい「言語」とはなにか。その本質と起源は、トートロジーにあると考えられますね。根源的な問題に迫る興味深い考察です。