■ 支配的な「語り方」から解放されるために

ライフストーリー論 (現代社会学ライブラリー7)

ライフストーリー論 (現代社会学ライブラリー7)

桜井厚『ライフストーリー論』弘文堂、現代社会学ライブラリー7

桜井厚様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

「体験」と「経験」のほかに、「語り」という次元があります。
「経験」というのは、自分の体験を認知的に反省したものですが、それは言語行為としての文化慣習にはあまり左右されないものとして、認知主義的に捉えられます。これに対して「語り」というのは、インタビューする人との間で制作される、共同作業そのものです。ある体験を認知的に明示化したものではありません。
その「語り」というものが、人生を物語的に捉えるための手段となります。インタビューは、たんなる観察ではなく、参与観察であり、物語を構成するという「実践」のための手段になります。
 インタビューによって明らかになる「物語の構造」を、ラボフが整理したように、「アブストラクト」「方向づけ」「複雑化する行為」「評価」「結果、解決」「終結」という具合に分けてみるのは、興味深いですね。
 「物語」というものは、「ある社会において支配的な語り方」に左右されます。支配的な語りに対抗するには、「混沌の語り」、あるいは「反ストーリー」という実践が必要になります。支配-被支配の関係に着目すると、物語のモデルそのものにも自覚的に対応しなければなりませんし、また自分の人生の物語が、どこまで物語的であるのかについても、支配的なモデルとの関係で、反省してみないといけないですね。