■ 復興・成長か、自律か


アメリカの越え方―和子・俊輔・良行の抵抗と越境 (現代社会学ライブラリー5)

アメリカの越え方―和子・俊輔・良行の抵抗と越境 (現代社会学ライブラリー5)

吉見俊哉アメリカの越え方』弘文堂、現代社会学ライブラリー5

吉見俊哉様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 敗戦を通じて、日本帝国の遺産の大部分は、アメリカの覇権構造のなかに組み込まれていきます。戦後の日本は、アメリカの傘下にあったからこそ、東アジアにおいて「欧米」的な位置を占め、準帝国的な地位を保持することができたのでしょう。日本の植民地主義は、敗戦によって終わったのではなく、それは形を変えて、つまりアメリカを中心とする覇権構造のなかで、再生産されていった、というわけですね。日本は、アメリカ支配を受け入れ、自身のアイデンティティの内部に、アメリカを組み込みました。
 では、アメリカを排して、植民地主義を排して、日本独自の共和国を作るというのは、理想でしょうか。「自律」や「アイデンティティ」の観点からすれば、一つの理想なのでしょう。しかし現実の日本は、アメリカ支配のもとで、東アジアの諸国を支配するという、「支配-被支配」の関係に組み込まれます。またそのなかで、日本の繁栄が可能となり、日本人はその繁栄を自己同一化していきます。それが戦後の日本人の自画像です。
 しかし根本的なところでは、戦後の「復興」や経済の「成長」というのは、日本人の「自律したアイデンティティ」と相いれない。そういう角度からアメリカを批判する視点をもつことは、意義深いです。