■ 人生あきらめれば、幸せになれる

資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか (NHK出版新書)

資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか (NHK出版新書)

水野和夫/大澤真幸『資本主義という謎』NHK出版新書

水野和夫様、大澤真幸様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 アンケートではなぜ、70-80年代の若者よりも、現在若者のほうが「幸せ」だ、と答えるのでしょうか。その理由を考えてみると、「幸せ」というのは、将来に対する人々の期待の関数になっている。つまり70-80年代の若者は、実際には幸せだったけれども、社会はもっと発展するのだから、将来のほうが「もっと幸せになれるにちがいない」と想像するでしょう。すると「今あなたは幸せですか」と聞かれて、「まだ十分、幸せではない」と答えることになります。
 ところが現代の若者は、将来のほうがもっと幸せになれるだろう、社会も発展するだろう、という期待をもつことができません。すると、いまが一番幸せなのであり、将来はリスクがあって、いまの幸せを維持できるかわからない、ということになります。だから「いま幸せ」と答える。
 現在の自分を、まるごと「幸せ」であると感じるためには、将来の自分が、もうこれ以上幸せになれないだろう、というある種の悲観というか、あきらめがなければなりません。あきらめると、幸せになれる、というのはひとつの社会学的真実なのかもしれません。