■ 全体は、細部に宿る

シンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップ

シンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップ

ジョセフ・ジャウォースキー『シンクロニシティ 改訂増補版』金井壽宏監訳、野津智子訳、英治出版

金井壽宏様、野津智子様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 先の『源泉』と同時に刊行された本(改訂増補版)です。「未来をつくるリーダーシップ」という副題ですが、ビジネス組織において、リーダーシップを育てるための、研修方法を考えるということが主題です。
 著者のプライベートな話で、離婚による挫折とその克服が、一つの物語になっています。ただ本質的には、先の本に出てくるUプロセスの「U字の底」において、知の創造に触れることが、リーダーシップの本質と重ねあわされているようです。
 著者によれば、デビット・ボームの『全体性と内臓秩序』という本に描かれる世界観が重要です。「内臓秩序」と訳されますが、その言葉の由来は、「包まれること」を意味するラテン語です。内臓とは包摂ということです。内臓秩序においては、存在の全体は、空間や時間の一つ一つの「断片」の内部に含まれます。一つ一つの断片が、存在の全体を包摂しているのであり、それぞれはすべて、完全な秩序の一部とされます。このような考え方をすると、不思議なことに、人は「創造の源泉」を獲得したり、あるいはリーダーシップの能力を自覚できたりする、というわけです。
 意識の根源的な深みに降りていくと、人類共通の源泉になっている。それは自我を超えていると同時に、自我のなかに世界の存在全体が宿っている。そのような感覚をつかんだ時に、なにか創造的なことや、他者と共鳴することが、生じるわけですね。
 人間というのは、私的に合理的な世界を生きているわけではなく、なにか自分を超えたものによって駆動因を得ている。その駆動因によって突き動かされている。そのような源泉は、自分のものというよりも、人類に共通な「なにか」です。
パレートの言葉でいえば、それは「残基」です。「残基」がもたらす社会的機能は、興味深いことに、ビジネス研修のテーマにもなっているように思いました。