■森崎和江の思想

『サークル村』と森崎和江 ―交流と連帯のヴィジョン―

『サークル村』と森崎和江 ―交流と連帯のヴィジョン―

水溜真由美『「サークル村」と森崎和江』ナカニシヤ出版

水溜真由美様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 ご刊行、おめでとうございます。本書には、魂が込められていると思います。北海道と九州における、炭鉱労働者たちの文学サークル運動を詳細に紹介しながら、その当時から「うたごえ運動」が広がっていったこと、あるいは、森崎和江による『無名通信』の発行など、文学というか、文字を綴る運動のなかで、新しい思想がつむぎだされてきたこと等々、すべてが興味深い歴史の発掘と再構成になっています。
 森崎和江を評価する際に、こうした時代状況を検討することがとても重要で、森崎思想の深い理解につながっていることに驚きました。
 個人的にはこの、1950年代にはじまった「うたごえ運動」の発展に、関心をもちました。共産党の青年部の合唱団「中央合唱団」が果たした役割が大きいのですね。当時の労働者にとって、うたごえは、ほとんど唯一の娯楽だったようですが、その運動に参加すると、共産党の手先とかレッテルを貼られて悩んだ人もいるという話もリアルです。
 また、うたごえの祭典は、「地方別」と「産業別」になされていた、というのも興味深いです。
 三池炭鉱の闘争は、とりわけ重要なのでしょう。三池闘争のなかで、いくつかの歌が生まれています。うたごえ運動家たちは、労働歌を通じて、ストなどの労働運動を激励していくのですが、いつか今度、当時の歌を集中して聴いてみたいです。
 労働歌の歌詞の分析は、とても参考になりました。それで「もやせ闘魂」については、荒木栄の作品集CDを視聴してみました。
 http://www.ongakucenter.co.jp/SHOP/CCD869.html
 すごい迫力です。
 この他、インタビュー等を通じて、森崎和江の思想を再構成している点は、とても深いです。「第三の性」論や、単性生殖を装うことで共同体の防御を図る習俗に対する批判など、大きな刺激を受けました。