■批判的視点を欠いた制度タイプの思考がベース

カール・シュミット入門講義

カール・シュミット入門講義

仲正昌樹カール・シュミット入門講義』作品社

仲正昌樹様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 テキストを丹念に読むというタイプのよき入門書になっています。
シュミットによれば、法学的思考には、三つのタイプがあります。
 「規範主義」
 「決断主義
 「制度的タイプ」
 です。
 「規範主義」は、あらかじめ決まっている規則を機械的に組み合わせて、自動的に答えを出すようなタイプの、非人格的な思考法です。
 「決断主義」は、正しく認識された政治的状況の正確な判断について、ある人格者が人格的な決定を貫徹させるという思考法です。
 これらの二つは、極めて対比的です。しかしこれらの二つの思考法を、どのようなときにどのように用いるべきかについては、一定の具体的な制度状況(加えて歴史状況)によって、判断が異なってくるでしょう。「規範主義」と「決断主義」を媒介するだけでなく、これら二つの思考法を可能にするものが、「制度的タイプ」の思考法です。
 「制度的タイプ」は、制度そのものを保障しようとする思考法です。ここで制度とは、法秩序を維持するための、古くからある「身分制」的な仕組みです。伝統的支配の思考法と言い換えてもよいかもしれません。そのような制度タイプの思考法は、制度それ自体が正当なのか不当なのか、という問題には答えるものではありません。制度そのものを維持しようとするため、批判的な視点を欠いています。
 しかし、「制度タイプ」の思考法は、制度を批判するための「規範主義」や「決断主義」が、どのように用いられるべきかについて、一定の規準を与えています。
 つまり、規範主義や決断主義をうまく活用できる制度は、身分制的であると同時に、近代合理主義的でもあります。これに対して、「規範主義」と「決断主義」をうまく活用できない制度タイプの法的思考は、前近代的であるとみなされるでしょう。