■ナイトのミーゼス批判は正しかったのか


ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス: 生涯とその思想

ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス: 生涯とその思想

イスラエル・M・カーズナー『ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス 生涯とその思想』尾近裕幸訳、春秋社

尾近裕幸様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 ミーゼスの大著『ヒューマン・アクション』は、最初はドイツ語で『国民経済学』として出版されました。この本に対して、フランク・ナイトは書評を書いて批判しています。ミーゼスは1930年代における経済学の新たな発展を考慮していない、その意味ですでに流行遅れだ、というのです。
 ナイトの書評の結果、不幸にもミーゼスは、当時の最新の経済学に対して無知であるとみなされてしまいました。ところがそのような評価は根本的に誤りであって、ミーゼスは英語版の大著『ヒューマン・アクション』において、伝統的なオーストリア学派の考え方を、まったく斬新な仕方で説明している、というのがカーズナーの評価です。
 私はニューヨーク滞在中に、カーズナー先生の講義を聴講したのですが、そのときにまさに刊行されたのが、この本の原書でした。話題の本で、ニューヨーク大学(NYU)の本屋のショーウィンドウには、この本がたくさん飾られていたことを思い出します。
 カーズナーが、ちょうどこの本を書いているときのことで、もう一つ、思い出があります。私がマリオ・リッツォ先生と、彼の研究室で議論していたときのことです。カーズナーは勢いよくリッツォ先生の研究室を訪れると、「草稿、読んでくれたかい?」とリッツォに尋ねました。リッツォがそのとき、なんて答えたのかはよく覚えていませんが、二人はおそらく、あとでこの本の草稿をめぐって議論したのでしょう。
 カーズナーにとってミーゼスは、師匠です。カーズナーは晩年、70歳で大学を退職するときに、ミーゼスについて、このような解説書を書いたわけですが、カーズナーはこの本の献上をもって、学者(研究者)を引退し、その後はユダヤ教のラビとしての人生を送る、と言っていました。もともとカーズナーは、ラビとしての才能に恵まれた方であると思うのですが、その説教力は、彼が自分の理論を一貫して粘り強く主張する際の力としても、大いに有効であったように思われます。
(カーズナー的な企業家精神の理論が、ユダヤ教における預言者類型と密接に関係しているのではないか、ということについて、以前私は書いたことがあります。)