■日本における唯一の「工場村」

大原孫三郎―善意と戦略の経営者 (中公新書)

大原孫三郎―善意と戦略の経営者 (中公新書)

兼田麗子『大原孫三郎 善意と戦略の経営者』中公新書

兼田麗子様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 大原美術館をつくった社会的事業家、大原孫三郎(1880-1943)の人生はとても多彩で、興味深いですね。
ロバート・オウエンに影響を受けて、またエベネザー・ハワードの田園都市論にも大きな影響を受けて、大原孫三郎は、労働者の生活環境を改善するための事業に意欲を示します。
 社長に就任すると、まず、倉敷紡績の工場の寄宿舎の二階建て増築を中止します。あらたに工場用地を購入して、そこに理想的な工場と寄宿舎を建てます。腸チフスの発生を防ぐという衛生面での配慮から、労働者の寄宿舎を、分散的で家族的なものへと作り変えたわけですね。その功績は大きいです。
 大原孫三郎は、当時の「労働問題」の根本を、労働者が家族を離れて寄宿舎に群居することにあると理解していました。労働者は、やはり家族と共に生活することができなければ、理想的ではありません。倉敷紡績のこの万寿工場は、日本における「工場村」の唯一の事例ともいうべきものとみなされました。