■サブプライム危機に対するポスト・ケインジアンの応答

金融危機の理論と現実―ミンスキー・クライシスの解明 (ポスト・ケインジアン叢書)

金融危機の理論と現実―ミンスキー・クライシスの解明 (ポスト・ケインジアン叢書)


J.A.クレーゲル『金融危機の理論と現実』横川信治監訳、鍋島直樹・石倉雅男・横川太郎訳、日本経済評論社

鍋島直樹様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 サブプライム危機に対して、ポスト・ケインジアンのクレーゲルがどのような対応策を提案しているのか、という点を興味深く読みました。
 グラス・スティーガル法が、時間とともに、しだいに骨抜きに解釈されるようになるプロセスについて、第八章の記述はとても参考になります。
 しかしその骨抜き(侵食)の過程には、規制当局も積極的に関与していたわけであり、アメリカ政府は、自国の商業銀行がイノベーションを起こすようにと、規制緩和を支援していたわけですね。
 ただ、そのような支援が、結果としてサブプライム危機を招いてしまったのだとすれば、私たちは、以前のグラス・スティーガル法の厳密な解釈に戻ることがふさわしいのか、ということが問題になります。
 クレーゲルによれば、そのような過去への回帰は、実際には不可能であり、預金受け入れ銀行は、もはや預金を受け入れる事業から収益を得ることが難しくなっていると判断します。
 クレーゲルの提案は、「大きすぎて潰せない」という問題と、銀行業がいろいろな機能の「スーパーマーケット化」するという問題を分けて、後者を規制して、銀行業の機能分離を提案する、というものです。
 しかしこれでは、預金受け入れ銀行の機能特化がかかえる問題(収益性)を、解決することができないかもしれません。機能の特化と分離という提案が現実的であるためには、それぞれの機能部門の収益を、ある程度まで保障するものでなければならないでしょう。