■政策を訴える政治家は損をする

ネット選挙とデジタル・デモクラシー

ネット選挙とデジタル・デモクラシー

西田亮介『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』NHK出版

西田亮介様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 2013年の参院選から、ネットを活用した選挙になりました。ただ、政治家がネット上で、自身の政治的な主張を明確にして積極的に情報発信するのかと言えば、むずかしいですね。万年野党を覚悟する場合は別ですけれども、政権を担おうという場合には、とにかくその時々の政局を読んで行動しなければなりません。自身の主義主張にこだわっていると落選してしまう。政権を担っている場合でも、与党本体の党議拘束によって、自身の主張を縛られてしまう。党の決定に従わないと、大変なことになってしまう。
 たとえば菅直人元首相は、2013年の参院選の東京選挙区で、民主党が一本化した候補者ではない人(脱原発を全面的に主張した大河原雅子)を支援しました。結果として民主党は、結党以来はじめて、東京選挙区での議席獲得に至りませんでした。民主党はそこで、菅直人に対して、党員資格三か月停止の処分を課します。元首相に対しても、こうした厳しい処分を課すわけですから、政治家が自らの主張で行動することがいかに難しいか、ということがよくわかりますね。
 安倍首相がフェイスブックで情報発信する際のパタンは、政策を訴えるというよりも、通常のあいさつか、あるいはメディアを批判する、というものです。情報発信力は、肝心の「政策を訴える力」と結びついていません。ネット上で、政治家が積極的に政策を訴えると、かえって「一貫性がない」などの批判にさらされることになり、不利になるかもしれません。
 ネット選挙がはじまっても、これでは政策論議が活性化しません。ではどうすればよいのでしょう。
 私が思うに、政治家はできるだけ議員立法でもって、法案を立案することそれ自体に、政治上の業績を積んでいくことが望ましいのではないでしょうか。何かを訴えるのであれば、どんな法案を立案したのか、具体的に示していくべきです。たとえ廃案になったとしても(廃案になる確率の方がとても高いという前提のもとで)、立法過程に関わっていくことが、業績として評価されていく。そのような政治過程が成熟すれば、政治家は積極的に、メディアを通じて政策論議をするようになるかもしれません。