■新自由主義とコーポレートガバナンス

変貌する資本主義と現代社会 -- 貨幣・神・情報

変貌する資本主義と現代社会 -- 貨幣・神・情報

正村俊之『変貌する資本主義と現代社会 貨幣・神・情報』有斐閣

 正村俊之様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 現代の資本主義は「新自由主義」として特徴づけられることが多いですが、その仕組みをシステム論的に考える場合、たんに市場化の論理で捉えるのではなく、コーポレート・ガバナンスの仕組みを拡張したものとして捉える、という視点はとても興味深いです。

 コーポレート・ガバナンスの三つの特徴。

 (1)「株主と経営者」の関係は、「本人(プリンシパル)と代理人(エージェント)」の関係にあるということ。株主が業務の執行を経営者に委託すると同時に、経営者の舵取りをするという、二重の関係が成立している。このような二重の関係は、「政府」と「その業務を委託された民間の団体」の関係にも、みられます。つまり、新自由主義の統治術とは、たんなる「民営化」ではなく、民間組織への「委託」とその活動の「舵取り」という二つの要素を含んでおり、コーポレート・ガバナンスの仕組みを取り入れたものだと考えられます。

 (2)「本人(プリンシパル)と代理人(エージェント)」の関係は、また、本人が代理人に対して責任を問い、代理人がその問いに答える(答責¬¬=アカウンタビリティ)という、責任の応答性が成り立っています。

 (3)代理人に対するコントロール手段の一つが、貨幣です。会計監査は、コーポレート・ガバナンスの目的を達成するための重要な手段であり、政府は、そのいわば会計監査を通じて、委託した団体のパフォーマンスのよさを判断することができます。

 以上の三つの特徴は、「株主と経営者」のあいだの関係を超えて、政府や自治体の統治術として、その領域を拡張していきます。それを「新自由主義の統治術」とみるわけですね。
 その場合、代理人の権限が強化されるのか、それとも本人の権限が強化されるのか、という違いは残るでしょう。いずれにしても、新たに「本人-代理人」関係を創造して統治することが、新自由主義の一つの発想にあると思いました。