■コミュニタリアニズムは伝統文化の再創造を志向する

コミュニタリアニズムの世界

コミュニタリアニズムの世界


菊池理夫・小林正弥編『コミュニタリアニズムの世界』勁草書房

菊池理夫様、小林正弥様、執筆者の皆さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 本書への拙評を『図書新聞』に寄せました。ご笑覧いただけると幸いです。
 ところで本書のなかで菊池理夫先生は、幼少期から大学生のころまでを回想して、ご自身がアメリカ的な未来都市に憧れをいだく「進歩主義者」であったことを告白しています。ところが大学院生のときに、夏休みに地元の弘前に帰省して、津軽三味線のライブハウスにいくようになったといいます。子どもの頃は何の感銘も受けず、「そのような伝統的な民謡は嫌いな『進歩主義者』であった」そうですが。
 なぜ菊池先生は大学院生になってから、伝統文化に感銘を受けたのでしょうか。本書には書かれていませんが、ただ「現在では津軽三味線のライブハウスは5・6軒ほどあり、県外から住み着く演奏者も増え、津軽三味線は全国だけでなく、世界中に知れわたるまでになっている。また、津軽三味線はアドリブが多く、独奏曲では演奏者の個性が重視され、同じ曲にはならない。」と記されています。
 おそらく菊池先生は、伝統文化をそれ自体として保存すべきものとして再発見したのではなく、可能性(世界性と独創性)をもったものとして再発見されているのではないでしょうか。コミュニタリアニズムは、たんに伝統的な共同体を重んじる思想ではありません。社会の近代化とともに、一度は廃れた伝統的な文化が、世界性と独創性をもったものへと発展していく過程に、大きな関心を寄せているのではないかと思いました。