■成長ではなく異常増殖する社会

マイホーム神話の生成と臨界――住宅社会学の試み

マイホーム神話の生成と臨界――住宅社会学の試み

山本理奈『マイホーム神話の生成と臨界 住宅社会学の試み』岩波書店

山本理奈様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 本書への拙評を『東洋経済』に寄せましたので、詳しくはこちらをご覧ください。オリジナリティに溢れる本です。
 バブル崩壊以降の日本社会は、いわゆる「失われた10年」とか「20年」と言われています。経済成長が著しく鈍化したため、もはや経済成長社会が終焉したような印象を与えていますね。そうした状況を本書は、ボードリヤールが『透明な悪』で用いた「超成長」という概念で捉えていますが、大変興味深いです。
 「超成長」とは、excroissance,英語ではexcrescential society であり、直訳すれば、「異常増殖」という意味になります。「成長」というと、産業社会の明確な未来像に照らして、合目的的に進んでいくというイメージがあります。これに対して、経済成長が鈍化し、産業社会がもはや合理的な達成すべき目的を失うと、社会を「成長」という言葉で捉えることが難しくなります。ところが、社会のなかで成長の要素がなくなるわけではなく、生産や消費の場面では、いろいろな創造的活動が営まれます。経済以外の場面でも、社会は全般的に、発展しているでしょう。そのような事態を、いわゆる「成長」ではなく、「異常増殖」という言葉でとらえてみると、さまざまな認識を喚起しますね。