■闘争的で創造的な資本主義の理想

国家と社会 (岩波講座 政治哲学 第4巻)

国家と社会 (岩波講座 政治哲学 第4巻)

『岩波講座 政治哲学4 国家と社会』岩波書店

金山準様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 ソレルのいう「暴力」とは、国家の強制力に抗する活動そのものです。それは実際の暴力概念とは、ずいぶんずれた用法ですね。
 ソレルを規範理論として読むというのは、とても興味深いです。
 第一次世界大戦後の現実として、国家と資本主義が癒着する状況が生まれていました。革命的な労働者の運動は、そうした国家独占資本主義の段階に対して、「反資本主義」と「反国家主義」の両方を求めています。こうした対立構図のなかで、ソレルは、国家の庇護のもとで闘争的精神を失った資本家たちを批判する一方、改良主義的な仕方で社会主義を導入しようとする労働運動の現実路線を批判します。資本家は国家と癒着せずに、むしろ国家に抗して闘うべきである。また社会主義を求める労働者たちは、国家に支援を求めずに、革命を展望すべきである。こうした二つの規範を提起するわけですね。
 では革命の先に描かれる社会の理想とは、ソレルの場合、どんなものでしょう。「皮肉なことに、労働者の闘争は資本主義をむしろ救い出すのである。」「ただ付言する必要があるのは、それは巨大資本を主体とする二〇世紀以降の資本主義のイメージよりは、個々の才覚によって問題を解決する企業家や、「アトリエ」において身体感覚や経験をもとに創意工夫を発揮する職人をモデルとしたものに近いという点だ。」(68頁)
 こうしたソレルの発想は、現代の創造的資本主義におけるベンチャー企業の企てを、規範的な理想とするものといえるかもしれません。それは言い換えれば、アトリエ的創造型の資本主義社会というものかもしれません。