■薬の開発がうつ病を増加させた


つくられる病: 過剰医療社会と「正常病」 (ちくま新書)

つくられる病: 過剰医療社会と「正常病」 (ちくま新書)

井上芳保『つくられる病――過剰医療社会と「正常病」』ちくま新書

 面白いです!これまでのご研究の成果を凝縮して、現代の「健康」産業の問題に、鋭く切り込んでいます。反国家介入、過剰医療反対、ノマド・・・リベラリズムの非常に良質な社会批判のスタイルですね。
 近年になってうつ病が増えたのは、決して社会的な原因ではなく、セロトニンドーパミンの分泌に影響を与える薬物が開発されたという、技術的な発展が原因なのですね。そのような薬物を売るためには、「うつ病」や「統合失調症」という診断をして薬物を投与する必要がある。因果の関係は、薬の開発→病気の増加、という順番であって、逆ではない、という女性の薬学研究者の意見(発言)は、私もショックでした。
 最後のほうで、松島論文からの引用があります。
「蛇」は、一方では人間の邪悪な欲望を喚起するものとして、他方では人間を脱皮させ再生させるものとして、両義的な作用をもっています。
「善いこと」「正義」「健康」「主体」など、さまざまな穢れなき理想を掲げても、そのような理想のみでは、人間は本質的なところで活動力をそがれてしまう。
 これに対して「活動的な生」とは、「蛇」のような両義性をもった作用と契約して、自身を脱皮し、再生することなのですね。リベラリズムであれなんであれ、ある思想信条をもって政治的公共性を生きるためには、デーモンとの契約が必要、ということかもしれません。