■罰金を課すと道徳律は蝕まれる

その問題、経済学で解決できます。

その問題、経済学で解決できます。

ウリ・ニーズィー/ジョン・リスト『その問題、経済学で解決できます。』東洋経済新聞社

望月衛様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 ある保育園で、子供を迎えに来る際に10分以上遅れた親御さんには、3ドル程度の罰金を課す、という制度を導入してみました。
すると、遅れてくる親御さんたちが、増えたそうです。
 これまで、道徳の観点から守られていたルールに、「違反したら罰金」という金銭的なインセンティヴを与えると、かえってその道徳律が侵食されてしまったわけです。なんでも金銭的に考えるのはよくない、ということが実証されました。
 ところが反対に、教育の現場で、善い成績をとったらお金をあげる、というやり方で、中退率を下げることができた、ということも本書で論じられています。
 高校の中退率を下げる政策は、その人にとって良いだけでなく、社会にとってもよいことですね。たとえば治安がよくなるとか、人的資本形成が改善される、などの社会的効果がうまれます。ですから地方政府は、なんらかの形で、高校の中退率を下げるために、予算を使うインセンティヴがあります。
 興味深いのは、「お金をあげるから頑張って勉強しろ」というのではなく、テストの直前になって、金銭的なインセンティヴを与えるという実験方法。こうしたインセンティヴだけで、生徒の成績は上がり、低所得層の地域の学生でも、高所得層の地域の学生に迫るような成績になるというのですから驚きです。
 成績の格差は、各人の知識や能力の格差を反映しているのではなく、たんに「やる気」の問題だ、というわけですね。どこまで妥当するのでしょう。
 お金に限らず、人間は小さなインセンティヴの仕掛けを積み重ねたような制度のなかで、日々の努力に駆られます。そのような制度のなかで、金銭が何と等価であり、また等価ではないのかという問題は、まさに経済と倫理の根本問題です。